つのへび日記

こなやぎのブログです。手仕事、語学、短歌、読書や映画など。

3/25藤森照信トーク@旧唐津銀行

ずっと気になっていた面白おじさん=藤森照信氏が地元・唐津に来てくれるということでトークを聴きに行きました。

もともと建築史家で、そのうちに自分でもやってみたくなったという彼の建築は、自由で野性的で面白いのです。
「藤森照信」で画像検索すると色々見ることができますが、とにかく力強く、へんてこで、素材の質感に富んだ愉しいものを作られています。

その藤森氏が、辰野金吾監修の旧唐津銀行の保存委員としてリノベーションに携わっていたというのは初耳でした。
トーク「藤森照信先生の建築面白講座」は、竣工してからちょうど百年目にしてリノベーションが完成し、一般公開を開始するにあたっての、オープニングイベントの一つ。
ホールのように改装された一階部分で行われました。


(転載元:旧唐津銀行 スタッフブログ

ちなみに二階部分は資料室等がありました。吹き抜けが美しい。

藤森氏のトークですが、史家らしくまずは唐津藩における辰野金吾の生家の位置づけ、コンドルに師事した辰野ら建築学生の生い立ちや時代背景などの説明。
そこから実際にスライドで西洋建築の代表的手法を見てゆき、実際に辰野が日本に建てたものと比較してみます。
辰野が円熟期のイギリスでゴシック建築をしっかり学んで帰国しながらも、発展途上である日本には時期尚早であるとしてすぐにはそれを活かさなかった(しかも別の手法を学びに再び渡欧!)という逸話は印象的。

最後に「なぜ古い建物を保存するのか」についての藤森氏の考察。
いわく「人は寝て起きて目を開けた時の風景が昨日と同じであることによって自己の持続性を確認し安心する。愛着の有無にかかわらず、昨日まであった建物がそこにない、あるべきところにないというのは「不快」であるからだ。」

ある建物の「喪失」を、幼少期の記憶であるとか思い出であるとかの感傷的なフレーズを用いずに「不快」としたところに面白さがあるなあ、さすが私の見こんだ面白おじさんであるよなあ、と感じ入ってしまった。これは理屈でもなければ、感情の大きさでもないのだ。言ってみれば「カップ焼きそばのお湯を流しに捨てた時に、いつもはボコンと鳴るステンレスの流しが何にも言わなかった時の不安感」みたいなものなんだろうと、私はこのトークの数日後、焼きそばを作りながら一人で納得していたのでした。
それから、自己の持続性の問題について考えたい方は、「どこでもドア」の思考実験をおすすめします。(「寝て起きて〜」のくだりを聞いて真っ先に思い浮かべたのがこれ)

ともあれ、半日ほどでふたたび離れてしまった唐津でしたが、旧高取邸もきちんと保存されていて見学もでき、近代建築好きには結構楽しめるのではないかと思います。お近くにお立ち寄りの際は、ぜひ。