つのへび日記

こなやぎのブログです。手仕事、語学、短歌、読書や映画など。

日本語学習者向け文化講座「夏の風物詩としての怪談」

タイトルがなんだか大げさになりましたが。

先日、知人の紹介で、ある外国語学校の日本語学習者向け文化サロンにて講師?のようなものをしてきました。

そこでは定期的に日本文化に触れる企画をやっているそうなのですが、日本人教師の数が少なくて毎回ネタ出しが大変だから、何かない?と聞かれたのがきっかけで、そういえば納涼怪談って他の国にはあまりなさそうだし、日本文化と言えるのでは?と言ってみたら、いいねーじゃあやって!と、講師役をやることになりました。

いざ調べだすと色々面白かったので、講義録?も兼ねて、ここにまとめておこうと思います。……が、あまり細かく書くと出典等ややこしくなっちゃうので、内容は一般常識レベルのをざっとだけ、主に学生の反応を中心に紹介します。

講座の全体の構成は、前半が講義形式の文化紹介、後半が「置いてけ堀+のっぺらぼう」の実演、その後感想戦もとい参加した学生の話を聞く時間を用意しました。

夏=怪談は常識か?

日本だと当たり前に「真夏のホラー特集」などをテレビや雑誌が特集したり、寄席で怪談噺がかかったり、文楽で刃傷沙汰の世話物をやったりしますが、これは果たしてふつうのことなのかな?と気になったんですよね。なぜなら西洋版百鬼夜行みたいなハロウィンは10月だし、イタリアのベファーナ(サンタとなまはげを足して割ったような魔女)が来るのは1月なので。

ぞっとする感覚で涼を得ようというので芸能で怪談をテーマにしはじめたのは、江戸後期からのようです。奇策に思えますが、脳が不安や恐怖を感じると、体も臨戦態勢を取るべく、大腿部などの太い血管に血液を送ろうとして、相対的に手先足先などの末梢部の体温が低くなるという見解があるそうで、真に迫る怪談であれば心身ともに涼しくなれるようです。

日本の怪談文化

いくつか代表的なものを紹介しました。

文学史からは、説話集のいち構成要素として奇譚が収録された『今昔物語集』、初の奇譚集である上田秋成雨月物語』、小泉八雲『怪談』を。不思議な話は(日本でも)900年前から愛されてたんだよというのを言いたかっただけなので、ここはさらっと流しました。

古典芸能として、落語、歌舞伎、人形浄瑠璃文楽)の紹介。どれも怪談はメインコンテンツではないよというのは前置きしつつ。
人形浄瑠璃で人気のある演目が歌舞伎になりますが、人形浄瑠璃の「怪談ジャンル」というと、人殺しや情死モノですと言ったときが、結構反応というか、どよめきがありましたw

あとは民間の風俗として「百物語」を紹介。室町期ごろからあるとも言われてるそうですが、はっきりしません。案外ルールが細かくて驚きました。ご興味のある方はウィキって見てください。

これだけだと退屈かなと思ったので、最後に現代の文化にみる怪談・奇譚モチーフとして『夏目友人帳』『妖怪ウォッチ』など紹介。特に前者、中国では主に女子から人気があります。

怪談実演『置いてけ堀+のっぺらぼう』

と言っても講談師のようなことはできませんし、そもそも聞き手はみな日本語学習途上なので、そのまま語ってもそれこそ置いてけぼりですから、平易な日本語での字幕も用意し、朗読の合間合間に解釈を入れようと準備していました。

しかし本番当日、中級学習者のL君が中訳担当として付いてくれることになり、L君が分からないところは更に別の中国人講師がカバーという体制にしてもらったので、二人のおかげでつつがなく終えることができました。

有名な本所七不思議の一つの『置いてけ堀』をベースに、「置いてけー」の声を無視した男が帰途でのっぺらぼうに遭うというパターンのをやったのですが、釣った魚を俺のだ!と言って持って帰るところで笑いが起きていました。怖かったかというと……うーん。

『闇芝居』鑑賞

ここで急遽、前述のL君が用意してくれた日本のアニメ『闇芝居』を2話ほどみんなで鑑賞しました。
本放送は去年頃だったと思います。深夜の短編ホラーアニメで、私も中国に来てからですが何話か見たことがあります。L君含め、何で中国で見れるの?というツッコミはナシでお願いします……!

学生参加コーナー

中国の古典怪談『捜神記』『聊斎志異』を例に挙げて、知っている怪談を挙げてもらおうとしました。

が、国産の怪談は「キョンシー」以降はあまり人気がないようで、代わりに日本のホラー映画(挙がった中では『着信アリ』『呪怨『リング』など)や雪女、トイレの花子さんなどが挙がりました。

中には宇治川の橋姫伝説を挙げてくれる子もいて、日本人でも知らない人は多いですよ!すごい!と思わず言ってしまいました。私は確か平家物語を読むまで知らなかったのだけど、どこで知ったのだろう。聞けばよかった。

それから参加した全員の学生に「怖いと思うもの」を日本語で挙げてもらい、お開きとしました。

やってみた感想

パワポを作ったり調べ物したり中国語の進行メモ作ったりと、準備は結構大変でしたが、ひさしぶりに自分の国文学専攻な部分をこれでもかと垂れ流せたので、結構スカッとしましたw

もともとこの枠では「文化体験イベント」みたいな企画が多いそうで、今回も内容が(非日本語話者には)難しすぎないかな?スライドに文字だらけで、退屈しないかな?と周りから散々言われてましたが、実際やってみるとみんな真剣に聞いてくれて、面白そうにしてもらえたので、良かったなあと思いました。

私としてはそれ以前の問題として、このコンテンツで学生さんが果たして集まるのかな?というそもそもな不安があったのですが、前日段階で10人の申込み、これなら十分だなと思ってると当日には20人近くが参加してくれたので嬉しかったです。

これは自分のことなんですが、本当に学習中の言語や文化に興味がある人なら、ゲームとか体を使って終わる体験(絵を描くとか、何か作るとか)では物足りないのでは?と思うんですよね…。良い年してお遊戯とか…と醒めた気持ちになるのは私だけでしょうか。

そうかと言って、あまりにもそのコンテンツを楽しむのに要求される語学力やその他の要素がかけ離れていると、いっそう楽しめないという事になるので、さじ加減が本当に難しいのだろうなと思います。

超長くなりましたが、今日は写真など一切なく、こんなところで終わります。