つのへび日記

こなやぎのブログです。手仕事、語学、短歌、読書や映画など。

自作短歌の解説(のようなもの、主にレトリックについて)

書き手を離れた書き物を追い縋っても詮無いし、我流だし経験豊富でもない自分がこういう大仰なのはなんかね、と当初はやるつもりはなかったんですけど、たくさんスターを頂いて嬉しかったので(単純)、どういう思惑でこういう言葉を並べたか、を言葉にするのもまた勉強かなと思い直して、自家解説を加えてみます。

詠み手同様、むっちゃくちゃ計算ずくのひねくれた歌ばかりなので、そこらへんの小手先プレイ(技巧とかテクニックとかいう大層なのでもないので、便宜上こう呼びました)に特化した解説になります。つまり、なぜこの言葉を選んでここに置いたか。私は自分の書き物にはなるべく淡白さを心がけていますが、仮に心情を盛り込むにしても、このことはつねに頭に置くべきだと思っています。とはいえ、天衣無縫な歌を詠める人のことも羨ましいなーと指をくわえて見ています。

短歌ではなく俳句の方では、ネット句会に以前ちょいちょい参加していたものの歌会(?)は初めてだったのですが、やはり句会と同じく自己評価と他者のそれにいささかギャップが生じるのが面白いですね。今回、すべての歌に一つ以上スターをもらっていたのが一番嬉しかったりします。

これから書くことは、あくまで「私はこう思う」を文末に置いているものとして、こういう風に作る人もいるのねー、程度に思ってもらえれば嬉しいです。

1.一錠:女子力とやらも供給してくれるらし一錠のチョコラBB

最初は「薬でないものを一錠と数えることで薬に見立てる」方向でしたが、そこのみの面白さ頼みになりそうでやめました。マジで女子力アップ!と思ってチョコラ飲んでるわけじゃないっすよ、という冷めた目線を作るために「とやら」がだいじ。

2.おい:まあそれはおいおいいずれ話すから君はどうなの興味ないけど

一番適当に作った歌ですが、好評でした。最後の句を括弧に入れたりするのも無しではないとは思うけど、地続きのほうが落差が出るかと。句読点含め記号はたまに使うと効果的なんですけど、くせになっちゃうのであまり常習しないほうがいいですね。

3.ウーパールーパー:ぬばたまの夜長くウーパールーパーは前世のえくぼ思い出しをり

ちょっと悩んで、枕詞「ぬばたまの」の「ぬ」の湿ったなめらかさに、ウーパールーパーまでの案内役を托しました。「えくぼ」は初め安直に「恋を」だったんですが、恋とか言いたくねーなーと却下して、最終的にぷくっとしたウーパールーパーになさそうなものにしました。

4.マッチ:エレジーは例えば夏のリコーダー例えば桃の絵のマッチ箱

今回すべての歌で気をつけたのが、題を最後の句に置かないということです。素人の私がこれをやると、いかにもその語に向かって一直線!でバレバレな拙いものしかできない気がしたのです。途中途中に視線を奪うモノを置けるほどの技巧はないので…。とはいえ、この歌だけが例外になりました。先に「桃の絵のマッチ箱」を決めて、次に「エレジー」を出して、両者を繋げられそうな雰囲気の言葉を探しました。

5.葉:君の流す根も葉も花もないデマの茎をかじって虫をやしなう

この歌に一番スターが付きましたが、例によって適当に作った歌です。純然たる言葉遊びという感じ。風刺みたいになったのも良かったのかな。虫養いは小腹が空いたのをちょっと紛らわすための食べ物、おやつですね。わりと古い言葉だったような。

6.月:「一般般(イーバンバン)」すなわちまずくもうまくもないと言いつつ我ら月餅を食む

「一般般」は「まあまあ」の意味ですが実際はまあまあよりちょっと下くらいに使われます。決定的にだめなとこはないけど…という程度。中国はちょうど中秋節なので、あったことをそのまま素直に詠みました。伝統行事の倦怠感みたいなのが出せたんじゃないかな。

7.転:三点倒立からの前転が苦痛です出しっぱなしの耳を見ている

どうにかうまいこと題を隠したくて、題は情景の導入部に置いて、同等以上のインパクトがありそうな語「三点倒立」を置きました。あと体の部位の名称ってやっぱりどきっとするかなと「耳」を。レーダー攪乱みたいなのもとっちらかしちゃうと問題ですが、まあまあまとまったかなと。

8.舌:かなしみの有声反り舌摩擦音美しき「日本(riben)」容易くはなく

十首のなかで一番内容ありきになっちゃった歌です。題を見たとき、まず音声学用語を使いたいと思い、ちょうど中国語のr音である「有声反り舌摩擦音」の語呂が良くて採用。中には童貞聖マリアうんたら *1 並みに長すぎ強すぎな語もありますし*2、専門用語も記号同様インパクトを与えるにはいいですが、適量を守ってご使用ください、ですね。
中国語をかじった方ならピンとくるかもしれませんが、このr音、西洋言語の巻き舌音とも異なり、日本人にはとても難しい音です。そんなr音は「日本人」という一語に二回も登場します。この音を克服しないとアイデンティティを掲げられない悲哀…みたいな皮肉、あとは繰り返し練習する音への愛着も掛けて「かなしみ」と開きました。かなしは便利です、いい言葉だし。
この歌は複数の方に言及していただきました。詠み手としては二句目で切ったつもりですが、いろんな読み方をしてもらえて嬉しいです。「美しき日本」の字面から政治的な雰囲気もちょっと匂わせてイメージを多層化できるかな?という狙いもありました。

9.飽き:食い飽きてなおもゆっくり食えという地獄があってもいい盂蘭盆会

これも若干中国ネタです。満腹だと伝えるのには「飽」の字を使うのですが、こっちの人々はそれに対して「ゆっくり食べて」って言うんですよ。ゆっくり食べても入らないよ!と困惑するんですけどね。そういう背景の説明抜きに面白くできるかしら、と詠んでみた次第です。地獄→釜のふた→の連想で盂蘭盆会を置きました。「ゆっくり」「あっても」の促音の連続もユーモラスなリズム感が出るかなと狙いました。

10.うつせみの:うつせみの人の背中のジッパーは下ろしてもいいちゃんと看るなら

初めは「空蝉」として詠んでいて、あ!枕詞、と少し試行錯誤して変えました。なので「背中のジッパー」はセミの羽化からの連想です。責任持って看取れよ、で看るの字を使いました。

以上です。なんだかんだノリノリの長文になってしまいお恥ずかしい。

余談ですが、この『短歌の目』のことを知る数時間前から、たまたま何となく太宰治の『右大臣実朝』を読み始めていまして、今もまだ読んでいるんですが、何というセレンディピティ!と驚きました。作中における和歌のウェイトはなかなか大きく、間接的なヒントも多いので、気になる方はぜひ。

惜別 (新潮文庫)

惜別 (新潮文庫)

次回はまた旅行記の続きを書きます。

*1:童貞聖マリア無原罪の御孕りの祝日、冬の季語です。

*2:無声後部歯茎・軟口蓋摩擦音とかね