あけましておめでとうございます。
中国も以前よりはグローバル化が進んできたとはいえ、まだまだ新年といえば旧正月なので、この年越しも、年明けをまたいで20分間ほど近所で爆竹が鳴りやまなかった以外は、特にどうということもなく。上海、北京のような大都市ならもう少しにぎやかかもしれませんが。そういえば、去年はカウントダウンイベントで上海バンドで事故もありましたし…。
個人商店のような小さなお店も特に休んだりはせず、平常運転です。大きいデパートでは、クリスマスからのセールが続いていますけどね。
とはいえ、南通はけっこう日系企業が多いので、そのスケジュールに合わせて休みを取っている会社は多いようです。その休みを利用して、日本へ遊びに行く人たちも。
さて、年が改まると必ず出る話題の一つに、「著作権消滅作家」というのがあります。
日本の著作権法では、作家の死後50年間は著作権が保護されることになっているので、それを超えた作家は特に管理者がいない場合はフリーになってしまいます。
例えば太宰治と松本清張はともに1909年生まれですが、太宰は没年が1948年だったために1998年から著作権が消滅している一方で、松本清張の没年は1992年なので、仮に著作権法が現行のままだとしても、フリーになるのはずっとずっと先の話ですね(むろん、松本清張は遅咲きの作家で、デビュー自体が太宰の死後になりますから、同時代の作家とは呼べないかもしれませんが)。
そして、この2016年は、国文クラスタにおいては数年前から注目されていた年だろうと思います。そう、谷崎潤一郎と江戸川乱歩という2大ビッグネームの著作権がともに切れる年だったのです。
余談として、同年に亡くなったこの二人の作家ですが、子供向けも書いていた娯楽小説作家の乱歩と純文学作家とされた谷崎の扱いにはかなり訃報記事にも差があった、という話を読んだことがあります。
たぶんこの本だったと思います。
著作権が切れるということは、出版のハードルも下がりますし、ネット図書館「青空文庫」でも読めるようになります。
谷崎も乱歩も、とても大好きな作家なので、青空文庫で読めるようになるというのはとりわけ今の環境だとすごく嬉しいことです。こちらへは、趣味の読書用の本はほとんど持ってこなかったので、つらつらした読書をしたい時には、スマホに入れた青空文庫ビューアでランキングをざっと見たりして適当に選んで読んでいます。
ということでさっそく、谷崎の中では唯一今のところ(2015/1/1 21:30)アップロードされている「春琴抄」を読みました。
上の方で大好きな作家といいながら、実はこの代表作とも言われる短編、未読だったのです。ちなみに細雪も蘆刈も未読です。お恥ずかしい。
一応国文学専攻(しかも近現代)なのでプロットは知っていましたが、やっぱり谷崎はうまいなあと改めて思いました。発表された当時の国文学者は作中に登場する『春琴伝』をこぞって探したそうですが、それ自体が谷崎の創作だったということなどを考えあわせると、また面白さも増すというもの。現代に通じるフェティシズムが濃密に詰まっていますが、「引くわ…」となるか「泣ける!」となるかは読者次第でしょうか(私は後者でした)。メリーバッドエンド好きはぜひぜひ。
この著作権50年問題、TPP次第では、2016年の到来が先か、著作権延長(70年)が先かと、ひそかに気を揉んでもいたのですが、ひとまず著作権改正は据え置きとなったので、こうして「春琴抄」を読むことができました。
私は以前書店で働いていたこともあるのですが、当時から青空文庫は好きでしたし、けっこう積極的に人にも勧めていました。図書館にしろ、青空文庫にしろ、まずコストゼロで面白いものに触れることができるというのはやはりいいことだと思います。そこから、特別に愛着のあるものにはお金を出したい、手元に置きたいと思うし、そこからが(出版・小売ともに)本屋さんの腕の見せ所じゃないかと。
ということで、二作家の好きな作品を少しご紹介します。青空にアップされるのを待つもよし、紙の本で読むもよし、ですね。
「少年探偵団」シリーズのイメージが強く、シリーズ中では「服を着替えただけの変装がばれない」「天井に張り付いて身を隠すのがばれない」など突っ込みどころの多さが特徴ですが、耽美的な大人向け小説には名作が多いです。それらには、谷崎潤一郎からの影響も大きかったそうです。
作業中の作品だと「人間椅子」「押し絵と旅する男」「芋虫」などが大好きです。特に「押し絵と旅する男」はこの作品自体が一幅の絵のよう。蜃気楼、浅草十二階などの素敵なモチーフ、世界観がたまりません。
また、上記のリストに挙がっていないものでは「ひとでなしの恋」、短いエッセイの「恋と神様」がいちおし。「恋と神様」はもう、声に出して読みたい日本語ですよ!
乱歩の世界観が一冊に凝縮されているような、とてもバランスの良い短編集です。
青空文庫にも現在唯一収録されている、暗号モノの先駆けである「二銭銅貨」、明智小五郎が初めて登場する「D坂の殺人事件」などの王道ミステリから「人間椅子」「芋虫」など危険な匂いのするものまで(事実、「芋虫」は一時発禁されていたこともあります)。
上記の「恋と神様」含め、エッセイが多く収録されているのが珍しい。
原作は読んだことがないのですが、丸尾末広と乱歩の世界ががっちりマッチングしております。同じく丸尾氏による『芋虫』もありますが、ちょっとエログロ度が高く、純粋に絵の美しさとか漫画化のパフォーマンスの高さでいえば、こちらの方がおすすめかな…。
さきほどの春琴抄を読んだと仮定して、そこからの分かれ道をトリッキーな文学路線とフェティシズム路線に分岐するならば、前者では「少将滋幹の母」、後者では「刺青」を推します。「少将滋幹の母」は典型的な母恋の物語でありながらすっきりと美しい王朝物語の趣がありますし、「刺青」は短編ながら、いや短編だけにスキのない、完成度の高い一篇だと思います。
リストにまだないものだと、「猫と庄造と二人のをんな」がいい。それから「美食倶楽部」、これを読めばきっと彼が本物の変態だということがわかるでしょう(ほめ言葉)。そういえば名文と名高い「陰翳礼讃」も恥ずかしながら未読なので、アップロードされたら読みたいなと思います。
ということで、今年もよろしくお願いします。