つのへび日記

こなやぎのブログです。手仕事、語学、短歌、読書や映画など。

2月の短歌の目、自作のふりかえり(解題) +読書メモなど

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元ネタがあるものだけ、簡単に種明かしというか解説を。

鬼は外出て行ったきりふるさとの人ただ老いてゆく節分会(せつぶんえ)

好きな寺山修司の短歌、「かくれ鬼の鬼とかれざるまま老いて誰を探しにくる村祭り*1」から連想しました。

たましひがちょっと抜け出ては戻るやうにシ♭ドレソレドシ♭鍵が波打つ


Debussy - Rêverie


ここ数か月の「短歌の目」では、あんまり自分で納得のいく出来のものが詠めなかったり、思いつくのにやたらと時間がかかったり、かかりすぎて締め切りに間に合わずに参加できなかったりと散々だったのですが、今月はぱっぱっと出来ました。トータルでも一時間かからなかったくらい。自分で好きだなと思うものも多くて、満足です。畢竟ことばとことばの連なりは化学反応のようなもので、長考してもいいものが出来ない時は出来ないし、いい組み合わせを引き当てられるのに、かけた時間はあまり関係しないのかもしれません。

別のエントリで書こうと思って準備中ですが、いい作用をもたらしたものとしては自分の環境の変化がありそうです。できるだけストレスのない生活を、と内向きに、守りに徹していたのをやめたのです。あまりにもストレスのない生活は、同時に刺激も足りなさすぎたのかなと反省しました。



それから、この本を読んだことも、おそらく良い作用をもたらしました。

詩と短歌と俳句を選んでいるのは、それぞれ池澤夏樹氏、穂村弘氏、小澤實氏です。知っているものも知らないものもあり、楽しめました。
特に短歌でいえば、個人的に印象的だったのは次の歌です。

吾木香すすきかるかや秋くさのさびしききはみ君におくらむ

この短歌は、林芙美子の短編「清貧の書」の作中に、とても印象的に挿入されていたことから、ずっと覚えていた大好きな一首だったのですが、この本で初めて若山牧水の作であることを知りました。

清貧の書

清貧の書

「清貧の書」は、短くてすぐに読める、しみじみと佳い作品ですので、未読の方はぜひ。
青空文庫のWeb版はこちらから。


他に『近現代詩歌』に収められている短歌で好きだったものおよび作者は、以下に。

わが胸の鼓のひびきたうたらりたうたうたらり酔へば楽しき 吉井勇

美しき亡命客のさみえるに薄茶立てつつ外(と)は春の雨 岡本かの子

シルレア紀の地層は杳(とほ)きそのかみを海の蠍の我も棲みけむ 明石海人

春がすみいよよ濃くなる真昼間のなにも見えねば大和と思へ 前川佐美雄

*1:私はこれで覚えていたのですが、「かくれんぼの鬼とかれざるまま老いて~」「かくれんぼ鬼のままにて老いたれば~」と、上の句が微妙に違うバージョンもあるようです。本で確かめようにも、売ってしまったのか見当たらず…。