つのへび日記

こなやぎのブログです。手仕事、語学、短歌、読書や映画など。

2021年読んでよかった本7冊

去年読んだ本のまとめとランキングを読書メーターで作った。
その中でも特に良かった7冊について書く。
目次はこちら。

タイトル直後の引用部分は、250文字程度の内容紹介と感想(読書メーターへの投稿と同じもの)。

1.『となりの億万長者』

イメージとしてのお金持ちと本当のお金持ちって違うんじゃ?というところから「億万長者」の研究を始めた著者たちの成果をまとめたベストセラー、らしいのだが、人から勧められるまで寡聞にして知らなかった。3〜6章だけでも◎とのことだったけど、面白くて順番を前後しながらも結局全部読んでしまった。計算式によると私はまごうことなき蓄財劣等生。ステイタスシンボルにお金を使うな、easy come, easy goはやめろっていうのが身につまされる。ドクターノースの「王様のルール」は自分も大書したいくらい。続編も気になる。

少し古い本だけど、お金についての攻守でいうと「守」の部分で学ぶところがとても多い本。
この本によると、年齢×税引き前年収×0.2が蓄財優等生かどうかのボーダーとのこと。とりあえずその半分から目指すぞ…!

本書には「金持ち父さん貧乏父さん」的に、ドクターノース、ドクターサウスという2人の人物を例にひいた蓄財優等生/劣等生の典型的な生活スタイルが紹介されていて、上記中の「王様のルール」はドクターノースが自分の娘に掲げさせているもの。

  • 強い子になれ。人生にはバラの花園が待ち受けているとは限らない。
  • 「私ってかわいそう」と言ってはいけない。自分を哀れな人間と思うな。
  • 靴のかかとを踏んで履かないこと。粗末に扱って、新しいものを欲しがってはいけない。ものを大切にしなさい。
  • ドアをきちんと閉める。家族のお金を無駄にしないこと。
  • ものを使ったら元へ戻すこと。
  • いつも明るく。
  • 助けを必要とする人には、すすんで手をさしのべること。

その他に印象に残った箇所。

人は、食べ物や飲み物の嗜好、スーツや時計など身につけるもの、車などで相手を判断するきらいがある。優秀な人は洗練された好みを身につけていると決めてかかっている。しかし、金を貯めて金持ちになるよりも、ものを買う方がずっと簡単だ。
(第2章)

経済的にしっかりした基盤を持とうと考えているなら、きっと実現できる。
だが、よい暮らしをするためにお金が欲しいと思っているのなら、一生、金は貯まらない。
(第4章)

2.『プリズナートレーニング 圧倒的な強さを手に入れる究極の自重筋トレ』

kn.hatenablog.jp

囚人が監獄で孤独に取り組む筋トレをコンセプトに、限られた設備での自重トレを部位ごとの特に6種目にフォーカスして紹介した本。各種目は10段階のステップに分かれていて、例えば胸筋ならプッシュアップ(腕立て)の立って壁に手をつくものがステップ1で、片腕でのフルプッシュアップがステップ10という感じ。6種目のコンテンツだけならYouTubeやアプリで「Convict Conditioning」で検索すれば把握可能なのだけど、本書の肝はその圧倒的な情報量で、ルーチンの組み立て方やバリエーション紹介など大変有用。

筋肥大目的、ルッキズム至上主義のマシンによる筋トレを断罪し、機能性に優れた本当の強い筋肉を自重トレーニングで培おうという大変硬派な書。表紙からしてちょっとネタっぽいのだけど(著者が元囚人でキャリステニクスの継承者みたいなコンセプト含め)、中身はうってかわって本当に実用的だし示唆に富んでいる。
紹介されているメイン6種目(本書でいう「ビッグ6」)のうち2種目(ブリッジとハンドスタンドプッシュアップ)は上級者向けなので、他の4種目(プッシュアップ・スクワット・プルアップ・レッグレイズ)に取り組んでいるところ。プルアップのほとんどのステップにはぶら下がるためのバーが必須なのだけど(レッグレイズの後半のステップにも)、章末に紹介されていたバリエーションのうち、器具不要で広背筋を鍛えられるものを見つけたので、家ではそれをやっている。
引用したい箇所は多いけど、いま手元にないのでそのうち追記したい。貸していた本が戻ってきたので、お気に入りの箇所を一部引用して追記する。(2022/1/10)

お金に支配されたほかの世界と同じように、これが”欠かせない”というイメージにだまされてはいけない。それはペテンだ。筋力と健康の頂点に達するために必要とするのは、これらの製品(引用者註:ジムの会員証、シューズ、ウェア、サプリ等)やその他もろもろではない。
あなたの体、正しい知識、そして確固たる決意。これだけあればいい。(CHAPTER 3 監獄アスリートのマニフェスト

「できるだけ難易度の高いトレーニングから始めたい」。ほとんどの男はそう考える。確かにハードトレーニングは大切だが、その欲求に耐えることも大切だ。
(略)シリーズの最初のほうのステップは、だれもができる容易な内容でもある。しかし、長期的に見ると、ステップ1から始めることが大きなメリットをもたらす。関節を強化し、筋肉間の協働力を高め、体に、バランスの取り方、タイミングの測り方、リズムのつけ方を教えるからだ。よりハードなエクササイズへのモチベーションも醸成する。

キャリステニクスを通じて培う本物の強さは、ティーンエイジャーが熱に浮かれたようにダンベルを挙げて求めるものとは訳が違う。これからの人生に大きな恩恵をもたらすものだからだ。つまり、基本的で簡単なエクササイズの習得に数週間費やしたとしても、それは、わずかな時間でしかない。(CHAPTER 11 体を鍛える時の知恵)

3.『観察力を磨く 名画読解』

弁護士で美術史家というユニークな肩書を持つ著者がこれまで多数おこなってきた、アート鑑賞から観察力を上げるセミナーのエッセンスをまとめた書。セミナー受講者の中には警官や捜査官、医師や医学生など観察力の欠落が命取りになる職業も。フルカラーで課題演習がたくさんあるので、受講者のような気分で読み進められる。バイアスに囚われず、主観をまじえず、ただ目に映るものを正確に受容する力、そしてそれを詳しく描写する力は鍛えて伸びるものなんだということが実証的に書かれていてとても面白かった。ぜひ仕事に活かしたい。

2020年に読んだ『独学大全』で紹介されていて興味を惹かれて買った本。カラー図版多数というのもあって安価ではなかったけど、本当に面白く、読んでよかった。

発見とは、みんなと同じものを見て、誰も考えなかったことを考えることである。

本書にはアインシュタインのこの言葉が引用されていて、バイアスに囚われずに物事を見る力、欲しい情報を正しく適切に得る力、そして得た情報を適切に処理し伝える力を絵画鑑賞を通じて養おう、というのを旨としている。
例えば、物の見方では三面アプローチ(私は何を知っているか/何を知らないか/何を知らなければならないか)、伝え方ではKISSの法則(Keep It Short and Simple)など、簡潔で覚えやすいものも多く、日常生活にも応用ができそうなことばかりだ。

残念ながら本書を読んだあと美術鑑賞をする機会はいまだ訪れていないのだけど、次に絵を鑑賞する時はじっくり細かいところまで観察し、背景を想像してみようと思うとわくわくする。

4. 『華氏451度』

主人公のファーストネームは、爆薬への点火前に逮捕され後世の人々から自身を象った人形に火を付けられるガイ・フォークスを想起させる。人形のように粛々と「昇火士(ファイアマン)」としての任務をこなす彼はある夜の出会いをきっかけに自らの生活に疑問を持ちはじめるが、クラリス、フェーバー、グレンジャーそれぞれとの出会いや旅立ちはあたかもそれぞれが一冊の本との邂逅や対話のようでぐっとくる。ベイティーが特権的に振りかざす、夥しい引用へのアンチテーゼとしてのグレンジャーの言葉が印象に残った。

kn.hatenablog.jp
ディストピアSFの古典ながら初読書。賢人の生き残りのひとり、グレンジャーの言葉はかけらでも読書家を自称する向きには心に留めておきたいもの。

われわれがただひとつ頭に叩きこんでおかねばならないのは、われわれは決して重要人物などではないということだ。知識をひけらかしてはならない。他人よりすぐれているなどとは思ってはならない。われわれは本のほこりよけのカバーにすぎない、それ以上の意味はないのだからな。

本書の引用符に囲まれた部分について多くの人が出典元を探し、考察サイトも多数存在したというのを巻末の「出典」で見て、オタクムーブ変わらないなーとほのぼのした気持ちになったりもした。しかし1箇所不明なところがあって、著者存命中にもかかわらず本人に聞くのはエチケット違反みたいな空気があったのか、結局そこは謎のまま、といういにしえのオタク良い話も知ることができた。

5. 『脳を鍛えるには運動しかない!最新科学でわかった脳細胞の増やし方』

タイトルの「脳を鍛える」は学力の向上とか、記憶力が良くなるとかの一昔前でいう「脳トレ」だけにとどまらず、脳機能全般を指していて、具体的にはうつ、ホルモンバランスの乱れ(PMS)、老化などへ運動が与えるプラス作用を、豊富なエビデンスとともに紹介している。本書で推奨される有酸素運動の量に怯んでしまう向きにも「やめてしまうよりは、低強度でも続けていたほうがはるかにいい」と優しい。あくまでマイナスの気分を感じない程度の運動を、自発的に楽しく、そしてできれば他人とのつながりを感じられる方法で、というのがポイント。

ずっと読みたかったところ、Kindleセールで見つけて読んだ。
文武両道という言葉があるけれど、本書いわく、「学習と記憶の能力は、祖先たちが食料を見つけるときに頼った運動機能とともに進化したので、脳にしてみれば、体が動かないのであれば、学習する必要はまったくない」ということで、学習の効果を上げるためには体も同時に動かそうね、ということらしい。
ただし、本書の日本語版タイトルにも語られているそうした内容は実は一部の章にすぎず、原書タイトル「SPARK: The Revolutionary New Science of Exercise and Brain」の通り、総合的には運動と脳の働きの関係(学習のみならず、ストレス対処、うつ、依存症やダイエット、PMS認知症など)全般を扱った本である。

著者の本業は精神科医とのことで、うつのメカニズムに関する記述も勉強になった。

そもそも脳の仕事は、つねに回路を接続し直しながら情報を伝達し、それによって人間を環境に適応させ、生き延びさせることである。ところが、うつになると、特定の部位でその適応機能がはたらかなくなる。つまり、細胞レベルで学習が遮断されるのだ。そうなると脳は、自己嫌悪の否定的な堂々巡りに陥り、その穴から脱け出すのに必要な柔軟性も失われる。(第5章)

私は今まで筋トレメインに運動をやっていたけど、本書が勧めていたというのもあって3~4か月前から有酸素運動も始めた。ちなみに「ラットをグループで暮らすものと、1匹だけで暮らすものに分け、それぞれ12日間走らせたところ、仲間がいたラットの方に著しい」効果があったというぼっちには厳しい記述もあるが、1~2ヶ月ほど続けると両者の差はほぼなくなるらしい。理由は不明らしいが、両者とも続けるうちに、運動それ自体に楽しみを見出すからか? と私は見ている。

6. 『いつも「時間がない」あなたに:欠乏の行動経済学

一見タイムマネジメント系のビジネス書を思わせるメインタイトルだが、実際のところはサブタイトルが示すscarcity(希少性/欠乏)にまつわる研究をまとめた書で、欠乏の対象は時間にとどまらずお金(貧困問題)や人間の処理能力にも及ぶ。欠乏は人に「トンネリング」を起こさせ、その集中がプラスに作用することもあるが大概は視野狭窄を引き起こす。「スラック」という予備(遊び)の部分を残すことで、その緩和や解決を試みることができるという話。ダン・アリエリーや名著『最底辺のポートフォリオ』への言及もあり、面白かった。

早川書房Kindleセールで。欠乏を「自分の持っているものが必要と感じるものより少ないこと」と定義づけ、そうした心理状態がもたらす効果を経済や生産性の側面から描いて見せた好著(なのでタイトル詐欺感はちょっと否めない)。
欠乏の負の効果に対処するための概念が「スラック」で、余白や遊びの部分を残しておく方がかえって生産性があがるとのこと。そしてそれを手に入れる方法は「大きいスーツケースを手に入れるか、スーツケースに詰めたいものの数を減らすか、どちらか」ということになる。It’s easier said than done.とはいえそのように心がけてやっていくしかない。
自分のスラックを守ることは心身の健康にも良いはずなので、本書で紹介されている「20-20-20ルール*1」は仕事にも取り入れたいところ。

同時期に同じセールで買った『デジタル・ミニマリスト』も面白かった。

kn.hatenablog.jp

7.『カンマの女王 「ニューヨーカー」校正係のここだけの話』

校正というお仕事の特殊性や特異性はしばしば日本でも話題になるけど、本書は『ニューヨーカー』の叩き上げベテラン校正係の方による、チャーミングで笑えて英語の勉強にもなる楽しいエッセイ。特にノンネイティブにとっては感じようのない母語話者ならではの感覚と、それに引きずられて生じる文法上の間違いの数々は本当に興味深い。原文の言葉遊びやユーモアを極力「ママイキ」にしてくださってる訳の細やかさも、どこまでも行き届いていて素敵。鉛筆について割かれた1章はアナログ文具好きにはたまらないものがある。年初から良い本読めました。

英語における新語の受容のされ方や各辞書への信頼度や使い方などの「あるある」な話も面白く、prescriptivist(規範主義者)、descriptivist(記述主義者)なんていう「ならでは」の語彙も拾えたりして英語学習の幅も広がった1冊。とはいえ、本文中に紹介されているカンマの有無とかカッコの使い方、両者の選び方などはノンネイティブの自分にはまだとても咀嚼できそうにないくらいハイレベルだ。
読後には著者のTEDも視聴したが、本書の雰囲気そのままの明るさや快活なユーモアがあって楽しい。
www.ted.com

おわりに

私は読書メーターで毎年のおすすめランキングを作るたび、この年もいい本が読めたなあとしみじみ思う。
結局のところ、読むか読まざるかというところから含め、
① 自分の持つ可処分時間と労力の限界を知り、
② 本のページを開いて一定程度の時間と知力と視力を捧げることを決め、
③ ②に値する本を選んでいく(値しないと判断した時点で潔く読むのをやめる)
というのを必ず自分軸でおこなうことが肝要だと思っている。そうすれば、〇〇ジャンルは読書にあらず、とか△△を読まざれば読書家にあらず、とか、××さんが勧めていたけど大したことない(あるいは時間/労力/金の無駄だった)、みたいな無責任な言説とは可能なかぎり距離を置くことができる。

いうまでもなく、上記の①②③はニーバーの祈り*2からのアレンジである。

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カート・ヴォネガットスローターハウス5』の挿絵より「ニーバーの祈り」

今年も読書含め、自分がしたかったことすべきだったことがたくさんできたなあと振り返れる年だといい。

*1:電子書籍は本当に目に悪いのか?いくの眼科院長 兼 日本近視学会副理事長 生野恭司先生インタビュー(3ページ目)の3.を参照。

*2:神よ願わくばわたしに変えることのできない物事を受け入れる落ち着きと、変えることのできる物事を変える勇気と、その違いを常に見分ける知恵とをさずけたまえ