つのへび日記

こなやぎのブログです。手仕事、語学、短歌、読書や映画など。

京都は移動祝祭日(2022/10/22日記)

If you are lucky enough to have lived in Paris as a young man,
then wherever you go for the rest of your life,
it stays with you, for Paris is a moveable feast.
-Ernest Hemingway

Kindle Unlimitedで読みたい本が多すぎて、大枚980円をはたいて1ヶ月延長した。

kn.hatenablog.jp

今読んでいるのは佐藤優『獄中記』(岩波現代文庫)だ。

国策捜査」のメインキャストに据えられることとなった著者は、これまでの外務省勤務では決して手に入らなかった「思索の時間」を思いがけず手に入れることとなる。
東京拘置所の独房内で、公判の準備と並行しながら語学学習と哲学書研究を続ける著者の精神は、だんだんと官僚社会から学術世界に再び引き戻される。
その象徴が、たびたび彼が見るようになる京都の夢だ。

佐藤氏は私の大学の先輩にあたるので、こういう心の動きは実感としてよく分かる。
大人になり、環境も学ぶトピックも変わり、それでも勉強に打ち込む時は心の一部が京都に在るような気がする。
あるいは、置き忘れてきたそれが、急にみずからの存在を主張し始める、とも言えるかもしれない。

何の気なしに見ていたTwitterで、今日が時代祭の日だと知った。
恐らくもう二度と住むことはない京都という土地と、こうしてインターネットを通じて細く細くつながっていることで、私の精神の一部に京都を連れてくることができている。

もし幸運にも、若者の頃、パリで暮らすことができたなら、
その後の人生をどこですごそうとも、パリはついてくる。
パリは移動祝祭日だからだ。
(高見浩訳、ヘミングウェイ『移動祝祭日』新潮文庫より)

Kyoto is a moveable feast.

原書で読む『くまのパディントン』シリーズ(ほぼ)全レビュー

今も「出来る」とは言いがたいが、まだあんまり英語が出来なかった頃、リーディング力を鍛えるために選んだ教材が『くまのパディントン』シリーズだった。
その頃はまだ洋書コーナーが充実していた天神の丸善ジュンク堂書店で、一度に2~3冊ずつ購入し、1年くらいかけて『パディントン』シリーズをほぼ全部読んだ。

「ほぼ」というのは、同著者によるパディントンの名を冠する本は数多くあり(それこそ『パディントンと行くロンドン』的なガイド本まで)、それらすべてを追っているわけではないから。
挿絵がPeggy Fortnumによるシリーズ本編および、後継のA.W.Alley挿画による総集編的なものを1冊読んだ。

リーディング教材に「パディントン」を選んだ理由

英語読めねえなあ、と思いながら読んでいた行方昭夫『英文快読術』に紹介されていたことがきっかけ。

本文の短い引用とともに、「英米の子供が読めるのだからやさしい英語だろうとなめてかかると、背負い投げをくわされるかもしれない」とコメントがあり、じゃあ『パディントン』を読めればネイティブの児童並みの読解力が付くのか? と軽い気持ちで最初の1冊を買ってみた。
洋販の販促帯だかで、読者対象を確か「TOEIC460点以上」としていて(うろ覚え)、その時700くらいはあった自分は、楽勝じゃんと思った記憶がある。

ちなみに有名な話ではあるが、その手の販促帯の参考TOEICスコアは本当に参考にならないので注意。
個人的な感覚では、使われている語彙も表現も、クリスティの『オリエント急行の殺人(Murder on the Orient Express)』の方がずっと易しいと感じた。

全11+1冊レビュー

邦訳が出ているタイトルについては、対応する福音館書店版の邦題も付した。
あらすじ引用も、福音館書店のWebサイトより。
そちらもやや大時代ではあるが味わい深い翻訳なので、ぜひあわせて楽しんでほしい。

A Bear Called Paddingtonくまのパディントン

ブラウン夫妻が初めてパディントンに会ったのは、パディントン駅のプラットホームでした。だから、クマには珍しい「パディントン」という名前が付けられました。暗黒の地ペルーから、1人で移民してきて、身寄りもなく駅の隅に佇んでいましたが、親切なブラウン夫妻にひきとられ、縦横無尽に活躍します。一度読み始めたらやめられない、おかしなおかしなクマのパディントンのお話の第1作目です。

記念すべき人生初の『パディントン』。ふつうに難しくてびっくりした。
倒置文もたびたび出てくるし、意味自体は易しいのに受験英語の上級単語帳にもないマイナー単語も多数、中には英国語彙ゆえに馴染みがないものもあったりと、かなり勉強になった。
こんな名詞知らん、と思って調べたら「(動物の)ひげ」だったりして(whiskers)脱力したのもいい思い出。
ネイティブの子どもが当たり前に知っていて、非母語話者に馴染みのない語というのがいかに多いかを確認するような読書だった。

しかし何より良かったのは、英語の勉強どうこう以前に物語がとても面白く、それ自体に推進力があるということだった。
パディントンのふるまいが一々可愛く周りの人間の切り返しも楽しく、「簡単な内容の本を嫌々勉強のために」という不毛な読書にならなかった。

More About Paddingtonパディントンのクリスマス)

ブラウンさん一家と共に過ごすパディントン。様々な大騒動を巻き起こしつつ、季節は夏から秋、そして冬へ向かいます。初めて雪を見たパディントンは大喜びですが、風邪をひいてしまい、介抱してもらいます。やがて一大行事のクリスマスを目前に準備にかかるブラウンさん一家。パディントンもバークリッジ(百貨店)に買い物へ同行するも、相変わらず騒動の渦中に……。パディントンが過ごした幸せなクリスマスのお話です。

相変わらず辞書や検索は必要で、文脈で判別した語も多かったものの、一冊目よりは楽に読めた。
ガイフォークスナイトをはじめ、(当時の)イギリス文化のカタログとしても面白い。
ロンドンに来たばかりの時に彼が初めて行った百貨店Barkridgesは恐らくSelfridgesが元ネタなので、今回の老舗百貨店はF&Mかな、などと元ネタ探しも楽しい。
パ氏は話し方こそルーシーおばさん仕込みの慇懃なロンドン英語を身に着けているものの、綴り方は苦手で自分の名をPadingtunと書いてしまったりもする。
本シリーズの対象読者は8~12歳とあるので、読者はパ氏に自身を投影させながら成長していくのかもしれない。

Paddington Helps Out(パディントンの一周年記念)

好奇心あふれるくまのパディントンが、必ず巻き起こす大騒動は、ピクニック、日曜大工、映画館でも相変わらず。そんな憎めないパディントンがブラウン家に来て暮らすようになってから1年とちょっとたちました。ブラウン家の一同は誕生日と1周年記念を合わせてお祝いしようと計画を立て、高級レストラン「ポーチェスター」でパーティーをすることになりましたが……。もちろんお約束の抱腹絶倒の大騒動が始まります。

友人で古道具屋店主のGruber氏に連れられてオークションへ参加し、次章ではうっかり競り落とした大工道具でDIYに挑戦するところが面白かった。
オークション特有の符牒みたいなものをこの章で何となく知ったが、ネイティブの子どももこういう場面から「大人の世界」を少しずつ知っていくのかもしれない。

ドジでも真心を評価されたり棚ぼたで何とかなるパ氏と対照的に、前作から登場の隣人Curry氏は非常に徳のない人物で何かと被害を受ける役回りなのだが、今回は彼にも怪我の功名的なラッキーが起こったのは良かったなと思った。

Paddington Abroad(パディントン フランスへ)

ブラウンさん一家が夏休みにフランス旅行をする計画を立てた時から、お決まりの大騒動が持ち上がります。まずは銀行へ行ったパディントンが、警察や消防まで巻き込んであわや逮捕の寸前。空港ではパスポートでひっかかり、国際スパイグマ疑惑をかけられる珍道中の末、やっとフランスに。現地でも次から次へと騒動の連続……。ついには自転車レースのツールドフランスパディントンが登場!

ブラウンさん一家がいつものロンドンのおうちを飛び出し、フランスでバカンスを楽しむ回。
最後にはとうとうツール・ド・フランスにパ氏が参戦してしまうという旅の本編も面白いけれど、旅行前の準備の場面の、ウキウキとばたばたが同居する幸せな空気感が最高に良かった。
家族は顔を合わせると仏語で“excuse me”を言い合い、バードさんはパ氏のために迷子札を手作りする。
最高級の革で出来ているそれには、ブラウン家の住所にくわえ数種類の言語で「見つけた方には謝礼を(Finder will be rewarded)」との文言が。

パディントンは密航グマではないのか?海外旅行大丈夫?という謎が解ける回でもある。

Paddington At Large(パディントンとテレビ)

ブラウン家で暮らす、くまのパディントンはそそっかしくて好奇心旺盛。ちょっと思いこみが強くて融通がきかないために巻き起こる騒動の数々……。それでもブラウン家の人たちも、近所の人々も、なぜかみんなパディントンを好きになっていく。そんな愛すべきくまのお話。今回はテレビのクイズ番組に出演したパディントン。アナウンサーと抱腹絶倒の珍問答を交わしたあげく、みごとに賞金を獲得します。賞金の使い道とは……。

ブラウン家に初めてテレビがやって来た回、と言えば本シリーズがかなりのロングセラーであることが分かるとおもう。

安売りの種のミックスを買って園芸を始めてみたらgreen thumbsならぬ”green paws”の持ち主だと判明したり、お巡りさんに追われたかと思うと警察署へ助けを求めたり、救急車で病院に運ばれたりと今回もドタバタ劇が展開。
これまで分かる通り、パ氏がなんかやらかすことが物語の起点になるというのがお決まりのパターンなので、ドジっ子ヒロイン的な要素にイライラする人にはたぶん向いてないかもしれない。(私は「まあ子グマだからな……」で許せるタイプ)

時期を前後して『帳簿の世界史』を読んでいたため、パ氏が自分の帳簿を付けている(しかも複式)と判明してかなり興奮した。

Paddington Marches On(パディントンの煙突掃除)

ブラウン家で暮らす、くまのパディントンはそそっかしくて好奇心旺盛。ちょっと思いこみが強くて融通がきかないために巻き起こる騒動の数々……。それでもなぜかみんなパディントンを好きになっていく。そんな愛すべきくまのお話。今回も煙突掃除に、バス旅行に、クリケットの対抗試合に、大活躍。そしてペルーのおばさんの100歳のお祝いに、生まれ故郷のペルーへ旅行に出かけることになりました。その見送りパーティーで……。

大寒波のロンドンから始まり、グルーバーさんとのプチ観光、英国紳士の嗜みクリケットに挑戦(これが好プレー連発というご都合主義!笑)など。
Peggy Fortnum氏によるラフでユルい挿し絵が私は好きで、本シリーズの魅力はこれによるところが大きいと信じているのだが、本作ではフードにマフラーの極寒コーデ、煙突掃除の煤まみれ姿、クリケット装備などいつも以上に可愛いパ氏のコスプレ(?)を堪能できる。

最後はブラウンさん達のパディントンへの愛情に涙。
うちに来てどのくらいになると思う?と訊かれてI don't know, it feels like always.と答えるパ氏がいとおしい。

Paddington at Work(パディントン妙技公開)

ブラウン家で暮らす、くまのパディントンはそそっかしくて好奇心旺盛。ちょっと思いこみが強くて融通がきかないために巻き起こる騒動の数々……。それでもなぜかみんなパディントンを好きになっていくそんな愛すべきくまのお話。今回は、ペルーからの帰国の船旅にはじまり、なつかしいブラウン一家のもとにもどったパディントンが、前にもましての大活躍。株でご難にあったり、床屋になったり、バレエも踊ります!

前作終わりでペルーへ帰ることになり、皆に送り出してもらったパ氏。
いよいよルーシーおばさん登場かと期待したものの、本作は帰途の洋上から始まる。

パ氏には「11時のおやつ」をともにするグルーバーさんという友人がいるのだが、彼の営む骨董店に入り浸るうちにいつのまにかパ氏がアンティークの審美眼を身に付けていたのには笑った。
ところで、現代の私たちには「爆買い観光客」というと2010年代中頃あたりの中国人のイメージが強いかと思うが、このシリーズにしばしば爆買い観光客のアイコンとして米国人が出てくるのは興味深い。

Paddington Goes to Town(パディントン 街へ行く)

パディントンは、一度もクリスマスの飾りつけを見たことがありません。ある夜、ブラウン一家みんなで、街に繰り出すことにしました。車中、交通渋滞だったので、みんなでにぎやかなロンドン通りを歩きはじめました。頭上に吊り下げられた何百万という星のように輝くライトを見上げる人でごった返しています。すると、パディントンの身に、またもやひと騒動がふりかかりますが……。

さすがにマンネリ気味か、そろそろやめるかと思うものの、読んでると面白くてまた次を読みたくなる不思議。
病院での、精神科医とのコントみたいなやりとりはバスの中で読んでて笑いを堪えるのが大変だった。
Baked Alaskaや炉端で売っている焼き栗など、食べ物が美味しそうな場面が多い回でもある。
有能な家政婦バードさんのツンデレぶりも楽しめる。

Paddington Takes the Airパディントンのラストダンス)

そそっかしくて好奇心旺盛な人気者のクマ、パディントン。ミシンでズボンを直せば見るも無残な結果に。馬術競技で馬に乗れば後ろ向き。フェスティバル会場では、いつのまにか筋肉隆々男と対決することに……。はりきって出かけた舞踏会でも失敗ばかりですが、最後はたくさん練習した社交ダンスを踊り、拍手喝采を浴びます。

お手製のeverlasting toffee(なめてもなめてもなくならないトフィー)が原因で歯医者へ行く話に笑い、ミシンでお直しに挑戦する回ではダッフルコートのポケットに穴が空いて…という物語の発端に流れた年月を思い(そして毎回犠牲になるカリー氏の持ち物…)、最後はダンスパーティに招かれたりと、本作でも英国文化とその語彙を堪能できた。
クラシックカーや乗馬の回などはニッチな単語ばかりになるので、結構わからない語が多かった。

Paddington on Top(パディントンの大切な家族)

シリーズも10巻目を迎え、ますます目が離せないパディントン・ワールド。初めて学校に行ったパディントン、先生の出した問題にはりきって手を挙げたのはいいけれど、飛び出す答えはパディントン流。はたまた、ひょんなことから法廷の証言台に?! 水上スキーで宙を舞ったかと思えば、ラグビーの珍プレーでチームを救うなど、スポーツでも大活躍します。そして、いよいよペルーに住むルーシーおばさんの登場で、物語はクライマックスへ……。

遂に、遂にDarkest Peruからルーシーおばさんがやってきた!の回。
教養深くて意思が固くて情に厚い彼女は去り際もかっこよく、バードさんの次に好きなキャラになった。
消費者相談ぽい回もあり、雑誌の広告って昔からこんななのか、と失笑したが、当時そういうものが社会問題になり始めていたのかもしれない。

中流階級ブラウンさん一家の「金持ち喧嘩せず」的なおっとり感は本当に心地よい。
例えばルーシーおばさんの帰国後、彼女にもっと色々聞きたいことがあった、とパディントンの出自やペルーのクマの生態などについて詮索したがるジュディたちをバードさんが窘めて言う「Don't you think that in this world it's rather nice to have some things left unanswered?(世の中にはわからないままのことがあってもいいのじゃないかしら)」とか、そういうところ。

Paddington Takes the Test

福音館版の邦訳は上記の10冊のみなので、こちらは未邦訳(ちゃんと探したわけではないが、たぶん)。
タイトルの「パディントン、テストを受ける」は冒頭のエピソードである、運転免許試験場で実地テストを受ける場面を指している。
この回のように、パディントンが何の関係もないところからひょんな誤解でトラブルに巻き込まれるさまは落語の三題噺みたいで、そうくるか!と毎回にやにやしてしまう。

パ氏にお手伝いを頼んでは不運を一身に受けるケチのカリーさんは、今までで一番の生命の危機にさらされていた。
本作からは、パ氏のお小遣いが物価上昇に見合わなくなっているということでめでたく昇給。
そういうところがさすが長期シリーズだなあと感心したが、もしかしたら読者から指摘があったのかもしれない。

Love from Paddington

シリーズ全エピソードからいくつかを抜粋し、パディントン(代筆:ジュディ)と時々ルーシーおばさんによる書簡体でそれらを語りなおしたという趣向の、総集編的な1冊。
最後2篇で取り上げられたエピソードは上記までの11冊に含まれないため知らなかったが、面白く読んだ。

本作はすでに挿絵画家がバトンタッチしていて、こちらの絵もファンシーでザ・児童絵本って感じでかわいい。
でも私はやっぱりPeggy Fortnumさんの描くラフな挿し絵が味わいぶかく、吹き出すようなおかしみもあって好きだ。

最近ブロックメモのグッズを見つけて、かわいくて買ってしまった。

メモ用紙の絵柄は全部で4種類

おまけ:実写映画版も(1作目だけ)観た

filmarks.com

原作ガチオタらしい気持ちの悪いレビューを書いているけれども、総合的には好きだ。
特に原作にないスチームパンク的な雰囲気が良くて、2010年台に「古くて新しい」物語を実写映画にすることの創意工夫を感じた。
2も気が向いたら見てみたい。

おわりに

前からずっと書きたかったトピックではあったけど、当時の感想をベースに書いたので、今読めばまた違った発見があるのかもしれない。
また1年くらいかけてゆっくり2周目を読むのもよさそう。
とりあえず来年の目標のひとつに入れておく。

『ペリーヌ物語』全53話を観たアニメ初心者の感想と考察

(最終更新日:2022/8/27)

ここ一ヶ月くらい、すっかりはまって毎日観ていたアニメ『ペリーヌ物語』。

テレビ放映は1978年で、私が生まれる6年も前のことだ。
世界名作劇場、の前身の「カルピスファミリー劇場」という枠で、翌年の『赤毛のアン』からおなじみ「世界名作劇場」となったらしい。

ペリーヌ物語』はそのような、いわば「日本アニメ黎明期」に属するような少し昔のアニメなのだが、全「名劇」シリーズ中で一番好きという人も多いという。
以下の文章では自分の語りたい欲に任せてがんがんネタバレをしていくので、前情報なしに鑑賞したい方はぜひ以下のリンク(第1話)から観てください。
全53話!?とひるむのは最初だけで、特に後半からは飛ぶように時間が過ぎてしまう。

旅立ち

私はAmazonプライムビデオで視聴したが、YouTubeでも公式で全話視聴可能なのでぜひ。
→2022/8/27現在、1話のみ視聴可能。

ペリーヌ物語 第1話「旅立ち」 - YouTube

目次

プロローグ(世界名作劇場のこと)

Amazonプライムビデオで「名劇」系列作品をいくつも観られるようになっていると知って、最初はストーリーをまあまあ知っている『赤毛のアン』に手を出した。

しかし共感性羞恥というのか、通知表に「落ち着きのない子」と書かれていた当時の記憶の断片が蘇ってきてむずむずして落ち着かず、それでもマリラの突っ込みが面白いのでしばらくは観ていたが、予告で「次回、初めての学校へ~」ってとこで、うわっギルバート殴るやつだ、と思って観るのをやめてしまった。
石板で殴るとかいくら何でも怖すぎ。
マリラ風に言うと「あたしはそういうことはしてほしくはないし、見たいとも思わないね」といったところだ。*1

そもそも「世界名作劇場」には親しんでこなかったので全体的に知識が乏しく、唯一『七つの海のティコ』だけはリアルタイムでTVで観ていた記憶が確かにある。
学校図書館の『シートン動物記』や『ファーブル昆虫記』に夢中だった生き物大好きっ子として熱心に観ていたはずだったが、今サムネイルを見ても、女の子とシャチ、どっちがティコだっけ?というレベルでストーリーは何も覚えていなかった*2

ちなみに『ロミオの青い空』はつい先週まで金髪の方がロミオだと思っていた。
いずれきちんと鑑賞したい。

きっかけ

そんな私がなぜ『ペリーヌ物語』という隠れた名作を引き当てることができたかというと、以前ひとから「あなたはオーレリィみたいだ」というようなことを言われたから。
それ以来、いつか機会があったら観てみようと思っていた。

後述するが、オーレリィというのは物語後半からの主人公ペリーヌの仮の名であり、オーレリィとペリーヌは同一人物なのだけど、あくまで私が似ているのはオーレリィらしい。

実際の私はこんなにまっすぐないい子でもないけれど、ちょっと生意気なところとか、何でも自作しようとするDIY精神旺盛なところは確かに似てる。
顔もちょっと似てる。

もちろん顔はペリーヌ期からずっと同じなのだが、彼女の自立心とかサバイバル能力だとか、それから年相応にいたずらっ子なところだったりとか、それまでずっと「しっかりした娘」だったペリーヌに色々な面が表れるのは、たしかにオーレリィ期以後なのだった。

自分の力で

ストーリー

ペリーヌ物語』は貴種流離譚とも言えるし、立身出世のストーリーでもある。

快活な少女ペリーヌは父の生まれ故郷を目指し、優しくて美人な母、犬のバロン、ロバのパリカールとともに馬車で旅をする。

旅の途中で次々と大切なものを手放し、うしない、ほとんど着の身着のままで故郷のマロクール村にたどりつくものの、今は名乗り出る時ではないと悟ったペリーヌはオーレリィと名を変えて、祖父の経営する繊維工場で働くことに。
そこで自分の力で生活をし、周囲の人の善意や運にも助けられつつ仕事でも取り立てられ、次第に厳格な祖父の心を開いていく。

善行をすればかならず報われるし、人を愛すればその人も愛してくれる。
そんな性善説にもとづく道徳的な物語でもある。
道徳的な物語というのは大抵退屈でつまらないものだけど、『ペリーヌ物語』はちがう。

構成

全体の尺でみれば、マロクール村への到着を境目として「ペリーヌ編/オーレリィ編」の前後編にちょうど分けられるし、ストーリーの起伏でいえば、ボスニア~パリの「ヨーロッパ旅編」、パリ~マロクールの「フランス旅編」、そして「マロクール編」の3部作とも言えそう。

と思っていたら、エクトール・マロの原作小説『En famille(アン・ファミーユ)』ではパリ以降のストーリーしかなく、ヨーロッパ旅のストーリーはアニメオリジナルとのこと。
それを踏まえて観ると、前半の旅物語が後半に比べて、特にストーリーが大きく動かずまったり進行なのも納得できるというもの。

地理と文化

物語はペリーヌ母娘がボスニアを発つシーンから始まるが、そこから向こう数話はしばらくボスニアだ。
何しろボスニアは広いし、彼女たちはロバの馬車で旅をしていて、ロバにとって大変な道は馬車から降りて歩いたりもしている。

私はヨーロッパの地理にからきし疎く、また全然記憶にも定着しないので一時期白地図を買って覚えようとしていたくらいなのだけど、『ペリーヌ物語』のおかげでヨーロッパに関しては以下いくつかの知識を得た。

  • ボスニアはものすごく大きい
  • イタリアとフランスは隣接している
  • スイスを通るアルプス越えは近道だけどめちゃくちゃハード

特に最後のアルプス超えは強烈な印象だったので、絶対に忘れないと思う。

アルプス越え

イタリアの手前あたりの宿屋でひんぱんに供されるシチューのようなものはグラーシュかな、とか、高地はやっぱりヤギのミルクなんだ、とか、食べ物や風景、街並み、人々が飼っている家畜などを見るのも面白い。
前半はストーリーの起伏に乏しい代わりに、それらに注目できるという良さもある。

産業と労働の歴史

ペリーヌがたどりつくマロクール村はすでに産業革命の影響下にあって、村の住人は自営業者か、そうでなければ工場の勤め人のいずれかだ。
作中でイギリスから最新の機械を輸入し設備増強をしていることからも、今後も事業の拡大を図る先進的な企業であることが分かる。

急速な工業化と事業規模拡大のために、労働環境の整備や福祉の充実は二の次であり、やがて小さな悲劇をきっかけに工場主でありペリーヌの祖父ビルフランは変節をせまられる。
一代で大事業を築き右肩上がりに利益の追求をしていた彼が、ペリーヌらによって福祉の概念に出会い「ノブレス・オブリージュ」を体現するに至る過程も終盤のひとつのみどころで、大人がこの物語を楽しめる所以でもある。
ファミリー劇場の名はだてじゃない。

ちなみにこの工場は原作発表当時に実在した繊維会社がモデルとのこと。
当時小説のモデルになることは、マーケティング手法として有用だったのかも、などと想像する。

火事

キャラクター

ヨーロッパ旅編では、一路フランスを目指して旅を続けるペリーヌや母を誰もが好きになり、多くの人が力になろうとしてくれるし、ピンチにも救いの手が必ず差し伸べられる。
みんないいひとだけど、何しろ旅路の出会いなので登場人物はかなり流動的だ。

しかし定住することで人間関係は濃密になり、人物(キャラクター)描写はいっそう深くなる。

パリ編ではシモン荘の人々やルクリおばさんなど癖のあるキャラクターが登場し、彼ら自身の生き方を変容させるほどにペリーヌと深く交流する。
そしてオーレリィとしての生活が始まるマロクール編では、友人ロザリーとその家族、工場の技師ファブリさんなどの絶対的な「善玉」キャラと、工場長のタルエル、ビルフランの甥テオドールという愛すべき「悪玉」キャラがそれぞれの存在感を示している。
そのためにストーリーの輪郭や起伏がより際立ち、見るものをぐいぐい引き込む。
前述の通り、ペリーヌ=オーレリィ自身のキャラクターの魅力も多彩さを増す。

おじいさんの大きな手

旅の空とマロクールをつなぐ存在であるサーカスの少年・マルセルも(原作ではほんの少しだけ登場する人物を大幅にふくらませた、ほぼオリジナルキャラらしいが)重要なキャラクターである。
前半はにぎやかな旅のお供として、パリではペリーヌの心を支える友人として、エンディングでは彼女の幸せの証人として、それぞれ効果的な使われ方をしている。

言語

「ヨーロッパ旅編」を視聴中の私の一番の関心ごとは、「ペリーヌは一体どんな言語で口上を述べているんだろう?」ということだった。

ペリーヌ一家は、当時珍しかった写真の撮影で路銀を稼ぎながらフランスを目指している。
父亡きあと、ペリーヌが父の口真似で客寄せをするあいだ、母マリはじっと黙っている。
最初は内気な性格のためかなとも思ったけど、おそらくペリーヌはフランス語で口上を述べていて、仏語が母語ではないマリは彼女にそれを任せているのかなと推測を立てた。

ペリーヌたちが旅した地域は主にスラブ語とロマンス諸語の言語圏なので、前者はともかく、後者ならフランス語の口上でも言いたいことは伝わるのかな、と思ったりもする。
マルセルの両親が巡業しているエトワールサーカス団もイタリアからフランスへ旅しているようだが、名前からするとフランス拠点のようだ。
こちらも舞台の進行などはフランス語でやっていたのだろうか。

マリはインド系英国人で、母語は英語である。
ペリーヌの父エドモンはフランス人なので、(後の展開で、マリとペリーヌの母娘間では英語による意思疎通があったとわかるが)家族3人でのコミュニケーションはクレオール的な言語によってなされていたかもしれない。
そんなことを考えるのも楽しい。

多言語な映像コンテンツは大好きなので、ペリーヌが通訳として初めて活躍する回は楽しくて心が躍るし、何回も観てしまう。

忘れられない一日

音楽

オープニング、エンディングもいいし、劇中のBGMもとてもいい。
長編アニメだからというのもあるのか、何曲ものBGMがふんだんに使われている。

OSTYouTubeで検索すれば、2枚組CD音源が聴けたりもする(公式のものではないのでリンクは貼りません)。
私はマロクール編で多用される「働くペリーヌ」という軽快な音楽と、ロザリーのテーマ(本編でロザリー本人が鼻歌で歌っていたりもする)がお気に入りだ。

好きなセリフやシーン

ペリーヌ物語』のセリフは(現代アニメに比べると)ゆっくりしている。
セリフの話者ごとにカットの切り替わりが多いことにも関係しているのかもしれない。時代を感じる言い回しもあるけれど、それにも味わいがある。

写真機どろぼう

とりわけ好きなセリフ、というかシーンはたくさんあるが、前半のヨーロッパ旅編から一つ挙げるなら「写真機どろぼう」の回だ。

いちゃもんを付けてきた同業者のイタリア紳士をペリーヌは理詰めでみごとに言い負かすのだが、その日の夜に母は「あなたがとてもしっかりしているので心配だ」と切り出し、「あの時のあなたは、とても意地が悪かったわ」とたしなめる。

先に意地悪してきたのは向こうだ、インチキ写真屋だなんて言うから、と抗弁するペリーヌに母は「言いたい人には言わせておけばいい、自分たちさえインチキをしなければいいのだ」と諭す。
「あなたには誰からも愛される人間になってほしい、それにはまず自分から人を愛さなくては」とも。
そしてその日の深夜、マリは自らの行動をもってそれを示すのだった。

私はこの時のペリーヌみたいについ正論で人を刺してしまいそうになるし、同業者の紳士たちみたいに劣等感を他者への悪意にすりかえそうになる時もあるから、ここからの一連のシークエンスは何度観ても泣いてしまう。
マリが言いたいのは「女、子供は分をわきまえろ」という抑圧の言葉ではなく、「人にはやさしくしましょう」という普遍的な善性からのメッセージであり、それを彼女は身をもって示し続ける。

写真機どろぼう

パリカール!私のパリカール!

単身パリを発ち、一文無しになったペリーヌは道中で行き倒れるものの、パリカールとの再会によって一命を取り留める。
これも観るたびにいつも泣いてしまう。
会う人みんなに「変な顔の犬」などと言われてしまう気まぐれなトラブルメーカー、バロンが超がんばる回でもある。

パリカールは決して高くはない額でルクリおばさんに買われてしまったのだが、続く回で彼女はそのことへの後悔を口にする。
「パリカールは優秀なロバだから、もっと高く買ってやればよかったと思っていた。だからこうしてペリーヌを助けることは神様の思し召しだったんだ」と。
かくして差額は善意によって埋められ、遅まきながら取引は公平なものとなった。

パリカール!私のパリカール!

ペリーヌ物語』の世界で、善意は通貨と同じ価値を持っている。
終盤ビルフランは、ただのオーレリィだった頃から彼女に優しくしてくれた人々に対してクリスマスの贈り物をするが、ここでも善意と金銭的な価値が交換されている。

これを産業革命以後の資本主義的な価値観へのシフトと見るのはたやすい。
だがルクリおばさんの善意を覚えている私たちは、それが一方通行ではなく、もっと柔らかくひらかれているものだと信じることができる。

忘れられないクリスマス

オーレリィの顔

マロクール編ではほぼすべての回に見どころがあって素晴らしく、一日に何話も続けて観てしまったほどだ。
その中でも、祖父ビルフランがオーレリィの正体について自力で推測を立て、真実への糸口をつかむこの回がとりわけ好きだ。

ビルフランは絶対的な権力者で威厳もあるが、彼の大真面目な言動が逆に可笑しかったり茶目っ気が垣間見えたりもする。
終盤、孫と祖父としての邂逅を果たしてからは毎回かわいい。
「おじいさまが大好き!」なんて言われてある大きな決断をするところなど、チョロすぎて愛くるしい。

オーレリィの顔

善意と健康

ペリーヌ物語』に2つ教訓を見出せるとすれば、ひとつは「写真機どろぼう」の回にも見られる「人には優しく」、そしてもうひとつは「健康第一」ということだろう。

母マリが病を得てのち、写真師の仕事ができなくなり母娘の財政状況は急激に悪化する。
ペリーヌは一人でお金を稼ごうと機材を持って出かけるのだが、子どもなので誰からも相手にされず商売にならない。
生活や治療のために、父の形見の宝石を売り、親子で暮らしていた家馬車を売り、マリの民族衣装を売り、ついにはロバのパリカールに至るまで大切なものを次々とお金に換えざるを得ず、その過程が本当に恐ろしくぞっとした。

いっぽうビルフランのように、お金があれば困難な手術も受けられ失った健康を取り戻せるひともいる。
だが、それにしたって一定程度の健康があってはじめて、手術ができるという条件付きでもある。
(ペリーヌがマロクール村に到着した頃のビルフランは、目の手術に耐えられる体力がないために盲目のままでいるしかないとされていた。)

やはりひとへの善意と同じくらい、健康もだいじだなと思ったのだった。

エピローグ(En familleとフランス語)

ペリーヌ物語』を完走した私だが、次は原作を読んでみたくなった。
Kindleを探したところ、仏語版(原書ではなく、初級仏語のリライト版らしい)を見つけた。
古い小説なのでパブリックドメインになっていて0円である。

En famille (French Edition)

これに取り組むべく、今はDuolingoでこつこつ仏語の勉強中だ。

やっぱりラテン諸語は似通っているな、と実感するたびに、やっぱりイタリアでも仏語の口上で人が集まってきただろうな、という思いを新たにしている。

読み終えたらまた感想を書きたい。
まだ読み始めてもいないのだけど。

*1:ちなみにTwitterで「赤毛のアン 共感性羞恥」で検索すると私同様、黒歴史が疼くという人がたくさんいた。強く生きていきましょうね。

*2:ところで、大人になった今ストーリーを見ると、幻の生き物を研究対象にする海洋学者(お父さん)ってそんな研究に助成金出るのか?とか、学会ではアンタッチャブルな感じになってそう、などと余計な心配をしてしまう。

Wordle攻略法

www.powerlanguage.co.uk

ここ数日考えていて、ある程度結論が出たのでメモ。とはいってもあまり新鮮味はない、まあそうだろうなという正攻法です。絶対毎回3手で上がれるみたいな派手な結果は保証できないけど、どんなについてなくても5手目くらいまでには上がれるんじゃないかという気がする。

 

まずは英単語のアルファベットのうち、使用頻度が高いものを抜き出す。検索すると有用なサイトはすぐに出るのだけど、その前に自分なりに予想を立ててみる。

 

まず母音a,e,i,o,uと、母音に準ずる役割をする流音l, rは頻度が高そうだ。反対に、ラテン文字の初期になかった(外来語を表すために用いられ始めた)文字は、英語でも出現頻度が低いのではないか。たとえばW(ダブルユー=2つのU)とか、J(イタリア語でイッルンゴ=i lungo 長いi)みたいに、文字の名前それ自体が副次的で、明らかに後発です、と言っているようなタイプ。

ideal-user-interface.hatenablog.com

私が参考にしたこちらの記事によると、果たして上位10文字はだいたいこのあたりだった。

a, d, e, h, i, n, o, r, s, t

この10文字をそれぞれ1度だけずつ使いながら、5文字のことばを2語考える。この作業自体がゲーム的で大変楽しい。(「私の考えたさいきょうのデッキ」をここに書いてしまってもいいけど、それだとつまらないので各々楽しみましょう)

 

そしてそのようにして呻吟しながら考えた2語を、wordleの最初の2手に使う。

すると不思議、10マス中3つか4つは色が付いているではないですか!運が良ければ、そのうち半分くらいは緑色かもしれない。

3手目からは一気に答えを狙うもよし、ここまででも微妙なら、もう一度未使用の文字多めで探って4手目以降で決めに行ってもよし。私はこの方法を採用して3回くらい解いたが、いずれも2手目まででヒントは十分集まった(たまたまかもしれない)。

 

ボードゲームなどの用語で、最善手を指し続けた場合の勝敗パターン(先手/後手必勝など)が解析されつくしたものを指して「寿命の尽きたゲーム」ということがあるらしい。Wordleももっと英語のスペリングの法則などをつきつめて考えると「必ず負けない」程度の定石はつくれるんじゃないかと思うし、実際上記のやり方でも十分「ほぼ負けない」くらいにはなれる。色んな意味で短命なゲームかもしれないが、なんだかんだで飽きるまでは、もうしばらく他人にとっちゃどうでもいいWordleのスコアを毎朝Twitterにシェアしつづけるのだろう。

 

6~7月に読んだ本

6月の読書メーター
読んだ本の数:3
読んだページ数:874
ナイス数:13

イスラーム入門 文明の共存を考えるための99の扉 (集英社新書)イスラーム入門 文明の共存を考えるための99の扉 (集英社新書)感想
面白く読んだ。イスラーム世界について、日本では必要以上に異化されがちだと感じる。例えば「神のみぞ知る」と訳されることもある「インシャーアッラー」、俗に言われる責任逃れの常套句というよりは「自分一人で何もかも成し遂げられると思うな」という自戒のフレーズであり、そう考えると「人事を尽くして天命を待つ」とも換言でき、急に親しさを覚えてしまう。通勤中に一周しただけなので、用語や人名などはまだきちんと把握できていない。二周目はノートに図示しながら読んでみようかな。
読了日:06月09日 著者:中田 考

アブサロム、アブサロム!(上) (講談社文芸文庫)アブサロム、アブサロム!(上) (講談社文芸文庫)感想
第二章まではしんどかったけど、そのあとだんだん面白くなっていった。樋口一葉かよ!みたいな一文の長さ、原文もこんなんなんだろうなと想像しつつ。様々な人物による語り=騙りの体裁を取っているが、今後新たな語り手にバトンが渡るのだろうか。下巻も楽しみ。
読了日:06月21日 著者:ウィリアム・フォークナー

基礎から学ぶ 音声学講義基礎から学ぶ 音声学講義感想
とりあえず今の自分に必要そうだった17章まで読んだので、一応の読了とする。これを読み始めた当初の狙いは、英語をなめらかに発音するための手がかりを得ることだったが、実際それ以上の収穫があった。たとえば中国語の一部の音の、子音の舌の位置を勘違いしていたことがわかったり、発音はまるきりノーマークだったスペイン語の音声について知れたりなど。今は破擦音がきれいに出るように練習しているところ。
読了日:06月30日 著者:加藤 重広,安藤 智子


7月の読書メーター
読んだ本の数:8
読んだページ数:2386
ナイス数:40

役に立たない読書 (インターナショナル新書)役に立たない読書 (インターナショナル新書)感想
すべてに首肯したわけではないが、面白かった。『学文(がくもん)の置き所、臍の下よし、鼻の先わるし』いい言葉だな。読書は基本的に自分だけのいとなみなので、すぐに人から言われたとおりにあれこれできるものでもないし、それにしたがう必要もない。本書に対してもそれは同じ。自分も、読書より面白いことがあれば明日にでもやめてしまうかもしれない。でもそのくらいでいいんだとおもう。見返りを求める行為は基本的に報われないので。
読了日:07月02日 著者:林 望

アブサロム、アブサロム!(下) (講談社文芸文庫)アブサロム、アブサロム!(下) (講談社文芸文庫)感想
上巻でフォークナー文体を受け入れる準備が整ったので、下巻はだいぶ読みやすかった。上巻で複数の人物から語られたサトペンやジェファソンの歴史が、下巻では主たる語り手のクェンティンと学友によって自在に語られ、そこから新たな物語が立ち現れてくる。最後の系譜、年譜と対照させると面白いが、その系譜、年譜は「真実」だと果たして言えるのか?などと考えるのもまた楽しい。
読了日:07月04日 著者:ウィリアム・フォークナー

ヒルビリー・エレジー アメリカの繁栄から取り残された白人たちヒルビリー・エレジー アメリカの繁栄から取り残された白人たち感想
前書きにあるように、本書はごく私的で主観的な回想記だ。しかし私的な随筆であっても、その書き手が十分な知性と論理性を備えている時、そこには並ならぬ価値が宿ることになる(それこそが読まれるべきエッセイの条件だと私は思っている)。そういうわけで、読み始めの印象は
少し予想外だったものの、「ケンタッキーのがばいばあちゃん」的中盤を経て至る自己実現と同時に浮き彫りになる周囲とのギャップ、生まれ育ったコミュニティとの心理的隔たりなどの鮮明な描写は面白くも切なくもあった。地方出身者は多少身につまされることもあるはず。
読了日:07月08日 著者:J.D.ヴァンス

現代中国経営者列伝 (星海社新書)現代中国経営者列伝 (星海社新書)感想
あとがきにある「好きか嫌いかではなく、中国は『面白い』」という著者の弁に大きく同意。本書に登場する経営者達の軌跡は多分に誇張も含まれているだろうけど、破天荒なエピソードの多くに「中国ならさもありなん」と思わされてしまう。コラムや本編の随所に見られる最新(刊行時)トピックも有益。都市/農村戸籍の廃止、著作権保護への急速な動きなど、中国も今なお着々と変化している。個人的には、HUAWEIへの好感度が前より上がった。
読了日:07月12日 著者:高口 康太

その他の外国語 エトセトラ (ちくま文庫)その他の外国語 エトセトラ (ちくま文庫)感想
現代書館から出ていた同名書籍の文庫化ということだが、そちらを未読だったので新鮮に楽しんだ。とはいえ、単行本収録分の文章は今の自分には違和感を覚えるくだりも少なくなかった。氏の他の著作と既視感がある、自称変わり者アピールが鼻につく、という向きには、第四章のチェコ講演旅行記だけでもぜひ読んでいただきたい。
読了日:07月21日 著者:黒田 龍之助

リオデジャネイロに降る雪――祭りと郷愁をめぐる断想リオデジャネイロに降る雪――祭りと郷愁をめぐる断想感想
昔大学のゼミの指導教官から言われた「巧い文章が書けるということは、論文を書くにあたっても何よりの強みになる」という言葉を思い出した。著者はエモい論文を書くことでも(一部の界隈で)知られているが、やはりというかなんというか、こうした散文では本領発揮というところだろうか。底抜けに明るいリオの風景を愛着たっぷりに描写しつつ、それが回想録という点によって愛着は別の色、つまり本書で幾度も登場する「サウダージ(哀愁)」をも纏うことになる。引用される数々の詩や紹介される楽曲からイメージが何層にも広がるのもまた愉しい。
読了日:07月23日 著者:福嶋 伸洋

Murder on the Orient Express (Poirot)Murder on the Orient Express (Poirot)感想
買って放置していたものの、実写映画リメイク版を製作中と知り再挑戦。鑑賞前に読み終われればと気長に取り組むつもりだったけど、面白くて思ったよりずっと早く読み終わってしまった。原書の効果かどうかは判らないが、読み進むにつれ「この物語を何の前情報も無しに享受できた人々はなんて幸せだったんだろう!」と思い、当時の書評などを読んでみたくなった。さすがに粗筋や結末は知っていたが、幕切れがこんなにあっさりだとは思わず驚いた。現代だとPC的にアウトよね、という民族主義的、性差別的な描写はかなり多く、時代だなあ、と。
読了日:07月30日 著者:Agatha Christie

オリエント急行の殺人 (創元推理文庫)オリエント急行の殺人 (創元推理文庫)感想
ペーパーバックで読んだ内容の細部確認用に古本屋で購入し、追いかけるようにしてこちらも読了。何しろ古い…。保母だとすべきnurseが看護婦とされていたり、原書でかなりテンションが上がった場面も説明が無さすぎて、これ当時の人は置いてきぼりだったのでは?と心配になったり。自分は普段翻訳ものの小説をあまり読まないのでこれが古さゆえかどうかはよくわからないが、作中の欧米人が「おじゃんになる」とか「小田原評定」とか慣用句使ってるのを読むと奇妙な感じがして気が散ってしまう…。
読了日:07月30日 著者:アガサ・クリスティ

読書メーター



通勤時間に本を読む習慣がついたので、先月はよく本を読みました。
先々月やそれより前は、どちらかといえば英語や中国語の勉強をすることが多かったのですが、語学の勉強はやっぱり好きなだけ声を出せる環境でするのが一番だとこのごろ思っているので、勉強は家でやり、それ以外の場所、交通機関の中や、朝の始業前や昼休みの会社では本を読むことが多いです。この頃は。

最近の語学の勉強について。
英語や中国語にはシャドーイング用の教材を使い、それ以外はDuolingoなどのアプリでマイペースに勉強してます。前者は、シャドーイング用音声教材を通勤時に聞きながら口を動かしてみるというようなことをこの前まではしていたものの、実際に音声に出す訓練とは似て非なるものだと気づいたので最近はそれはあまりやっておらず、先に書いたように家でやる時間をなるべく確保できるように努めているところです。結局スピーキングというのは口の形+息の振動が具現化したものなので、息=声量が不十分な状態での口パクのトレーニングではあまり意味がないのではないかという結論に至りました。
英中以外では、最近は広東語とポルトガル語を物見遊山的に楽しんでいます。

【翻訳レシピ】(オーブンは無いけど)ファビュラスな香港風チャーシューを作ろうじゃないか

きっかけ


この前、なんだか無性に中国で食べていたチャーシューが食べたくなったので、レシピを探して挑戦しました。
チャーシューについては、以前こんな記事を書いたことがあります。かなり前のことです。
kn.hatenablog.jp
この時のチャーシューは、かなり日本的というか、よくラーメンに乗っているような、みんながイメージするようなやつでした。
丸く成型して、一時間くらい茹でて、最後にタレを焼き絡めるという製法です。

中国のチャーシューは、というか、時々行っていた美味しい香港飲茶の店で出ていたチャーシューは、もう少し前菜ぽくて、冷菜みたいになってることもあって、皮がパリッとしていて香ばしいやつなのです。
やっぱり国内のレシピだとそれっぽいのがなかったので、「蜜汁叉焼」で検索してみて、よさげな英語レシピを見つけました。
一晩寝かせて作るレシピなので、お休みの前日や週末に仕込むといいと思います。

というわけで、以下に訳出してみるレシピはこちらのサイトのレシピです。

www.keyingredient.com

適宜言葉を足したり引いたりしてますので、「こいつの訳は信用ならん!」という方や、原文に興味がある方はぜひ見てみてくださいね。

レシピ

では、以下作り方の紹介です。
引用部分が訳出箇所で、ところどころに、注釈…というにはややおこがましい、実際自分で作った時の気づいたことや感想などをコメントしています。

材料:
豚肩ロース肉…500g前後(4つに切り分ける)
にんにく…3片(みじん切り)
料理油…大さじ1と½

※(チャーシューだれの材料)
麦芽水あめ…大さじ1と½
はちみつ…大さじ1と½
海鮮醤…大さじ1と½
醤油…大さじ1と½
玫瑰露酒…大さじ1
白コショウ(パウダー)…3振り
(あれば)食紅…3滴
五香粉…小さじ½
ごま油…小さじ½

豚肉の量は、原文では1ポンドとあったので、400~500g程度でいいと思います。
私は400g弱ひとかたまりの肩ロースを買って、半分の長さに切って使いました。

ちょっと調味料の解説を。
海鮮醤はその名の通り、海鮮エキスを煮詰めて作られたソースです。

S&B 李錦記 海鮮醤 100g

S&B 李錦記 海鮮醤 100g

なければオイスターソースで代用可。私はオイスターソースで作りました。

玫瑰露酒はハマナスの花のリキュール。バラを思わせる香りがする…そうです。

私は持ってなかったので代わりに三河みりんを使いました。なんか、それっぽい風味のあるお酒が他になかったもので。飲んでもおいしいし、いけるかなと。

五香粉はシナモン、クローブ八角などのスパイスを乾燥して粉状にしたものです。

マスコット 五香粉 27g

マスコット 五香粉 27g

五種類のスパイスだから五香粉と思ってたんですが、もっとたくさんブレンドされてるものもあるんですね。知らなかった。
ナツメグみたいに肉団子の種に混ぜるのもいいし、中国にいたときはこれでジンジャーシロップとかチャイも作ってました。あっちの五香粉、たくさん入っていてすごく安かったのに帰国時に処分しちゃったのが悔やまれます。

あと、この調味料の中で侮りがたかったのが白コショウです。
中華によく使われるイメージがあったのでこの機会に揃えたのですが、「黒コショウあるし黒で済ませとこ」と思っている方も、騙されたと思ってぜひ白コショウを使うことをオススメします!一振りするだけでだいぶチャイナみが増して「それっぽい」味になりますので。

マスコット ホワイトペッパーパウダー 30g

マスコット ホワイトペッパーパウダー 30g

食紅は元のレシピに「あれば(optional)」と書いてあったので、今回は使いませんでした。

作り方:
※をすべてソースパンに入れて火にかけ、とろみがつくまでよく混ぜる。火から外して冷ましておく。
粗熱が取れたら、チャーシューだれの三分の二の量とにんにくを合わせたもので、豚肉を一晩漬けておく。
残り三分の一のチャーシューだれは、料理油を足してとっておく。冷蔵庫で寝かせる。

翌日、190℃に温めたオーブンで豚肉を15分間焼く(オーブンに入れる前に、豚肉の余分なタレは軽く切っておく)。オーブンから出した豚肉を金網に並べ、直火で炙り焼きにする。
取っておいた残り三分の一のチャーシューだれを時々豚肉に塗りながら、全面にこんがりと焼き目が付くまで焼く。チャーシューを一口大にスライスし、塗る用のチャーシューだれが余っていればまぶし、炊き立ての白いご飯と一緒に提供する。

引っ越して以降、我が家にはまだオーブンがないので、前半の中まで火を通す工程にはフライパンを使いました。
豚肉をホイル蒸しの要領でアルミ箔を使って中の空気が逃げないように包み、鉄フライパンに入れて温度が上がったらフタをして火を弱め、15分間加熱。
水などは特に入れませんでしたが、これで無事に中まで火が通りました!

直火焼きには主に魚や焼き野菜に使っている網焼き器を使いました。
刷毛も特に持ってないので、スプーンの腹と背を使ってお肉の全ての面にタレを塗り伸ばしました。
タレは残さず全部焼きながら塗ってしまいました!

できあがり


自分ではもう少し焦げ目がついて皮がパリッとしてた方がよかったのですが、まあ一回目ということで。
前半のフライパン蒸し焼きの時に皮目を下にしていたらよりいい感じだったかもしれません。


次の日は、大大大好きなチャーシュー炒飯にして食べました。前菜やつまみとしてのチャーシューもいいけど、私はこのチャーシュー炒飯が一番好きです。

おまけ

元レシピにはちょっとした注釈もついているので、以下訳出しておきます。特にオーブン調理される方は参考になるかも。

調理メモ:
アウトドア用グリルがあれば、前半オーブンを使う必要はないが、コンロの直火での炙り焼きのみでは中まで火が通らないので、必ず炙る前にオーブンにかけること。
もし最後までオーブンのみで調理するなら、加熱時間を25~30分かけるとよい。その場合、S字フックを使ってオーブンの最上段に豚肉を吊るし、鉄板かアルミホイルを下に敷いて肉汁を受けるようにするのが望ましい。

アウトドア用グリルというのはこういうやつですね。バーベキューコンロっていうのかな?

何にせよ、中まで十分火を通し、外側はこんがりというのが肝ですね。私もまた折を見て、再挑戦しようと思います。
ごはんに良し、つまみに良しなので、ぜひ作ってみてください。

その他の翻訳レシピ

kn.hatenablog.jp

清廉でうつくしい、中国映画『胡同の理髪師(原題:剃头匠)』感想文

市役所での転入手続きも済んだので、先日さっそく市の図書館で貸出カードを作りました。
図書館のサービスはなかなか良くて、もう少し使いなれたらそのうちこれで一つ記事を書こうかなーと思っています。


総合図書館は大きくて、中に喫茶店、学習室、飲食スペースのほかミニシアターも入っていて、収蔵している映像資料・作品から月替わりでプログラムを組んだものが上映されています。

今月はアジア映画名作選ということだったので、気になる映画の上映に合わせて、貸出カードを作りに行ったというわけです。

その映画『胡同の理髪師』のあらすじはこちら。(引用:福岡市総合図書館映像ホール・シネラ 映画解説から)

93歳のチンさんは12歳の時から北京の古い街角で理髪師として働いてきた。客は馴染の老人たちだが,知り合いは次々に引っ越していく。そして近く家が取り壊されることを通知される。北京市の胡同に暮らす老人たちを丹念に描いた作品。チンさんは俳優ではなく,胡同に暮らす現役の理髪師。消えつつある街並みを哀惜を込めて描き出す。

予告編はこちら。

映画 「胡同(フートン)の理髪師」 (06 中/0802 日本公開) 予告編


この映画は上海国際映画祭でメディア大賞、インドのゴヤ国際映画祭で「金孔雀賞(映画通でないので、それがどのくらいすごい賞なのか解りかねますが…)」を受賞したということで、日本でも2008年に岩波ホールなどで上映されたようです。

以下の感想では内容に触れますので、ネタバレが嫌な方は読み飛ばしてください。




映画は剃刀を当てる音から始まります。丹念に顔を剃られている男性が、最後にタオルで顔を拭かれて「舒服啊(気持ちいい…)」とつぶやく。そんなシーンから幕を開ける本作は、物静かで、ノスタルジックで、衒いのない美しさに満ちています。

主人公のチンさん(敬大爷)を演じているのは、本物の「剃头匠」である靖奎氏で、登場する近所のホルモン屋なども実在する(した?)ようです。幹線道路は大きな輸入車で渋滞する一方、チンさんがリアカー付き三輪車で往来する「老街」の界隈はまだ昔ながらの狭い胡同が残っています。つけっぱなしのテレビからは北京五輪まで1000日弱のニュース、その沸き立つ声を聞きながらのんびり麻雀を打つ老人たち。話題は亡くなっていく友人のこと、心配な子どもや我が身のこと……。

チンさんはまさしく清廉潔白といった人物で、どんなに物価が高騰しても理髪代はいつも5元(90~100日本円)、子への不満をもらす友人には「彼らの世代も大変なんだよ」とたしなめ、愚痴をこぼす息子にはそっと自らの蓄えを渡すなど、温厚そのものです。同志の訃報に接するたびに、やがて来る自らの死を思い、できるだけ迷惑をかけず、さっぱりとしていなければと決意を新たにし、役人から自分の家を「取り壊し」と認定されても「なあに、自分が生きているうちはありえないよ」と嘯く一方で、身分証の更新で「20年有効」の新しいIDカードを受け取ってしまうところなどに、おかしみがあります。

北京市郊外に住む子世代の生活(潔癖なくらいにきれいな家に住み、フォルクスワーゲンに乗る)とチンさん達の胡同の対比もよくできていたと思います。それから、ご覧になった方で上記の「息子に自らの蓄えを渡す」シーンで、息子がろくに礼も言わずにチンさんの元を去ったところに違和感を感じた方も少なくないかもしれません。中国だと、家族や親しい間柄では、あまり感謝のあいさつはしないんですよね。本作中でも、殊更に「ありがとう」「すまないね」とチンさんが何度も声をかけていたのは、自分の肖像画を描いてくれた「友人の孫」の美術学生という、少し遠い間柄の人物くらいです。



ネタバレ終わり。

くすっとするシーンあり、しみじみと美しい場面もあり、とても引き算が美しい映画だなあと思いました。
監督はハスチョロー(中国語表記:哈斯朝鲁)。珍しい名だなと思いましたが、蒙古族なんですね。百度百科によると、ハスは「玉」、チョローは「石」を、それぞれモンゴル語で表すそうです。モンゴルでは父親の名を自らの姓にするそうなので、どちらかが彼自身のファーストネームなのでしょう。

ちなみに、主演の靖奎氏は今でももしかしてご存命なのかしら、と調べてみたところ、2014年11月付で訃報を伝えるニュース記事がありました。
101岁“剃头匠”靖奎离世_北京新闻·城事_新京报电子报
享年101歳、前月の下旬から肺炎で入院されていたとのこと。入院中も自分の子どもたち(実際は3男3女をもうけていた)の電話番号をそらで言えたりとしっかりされていたそうです。
記事によると、2007年からは近隣友人の逝去や自身の体力の低下のために、出張の散髪はせずに、もっぱら来た人に施術していたとのこと。映画のヒットのおかげで、テレビに取り上げられたり、国内外から会いに来る人がいたりと、ちょっとした有名人になっていたようですね。

映画の原題は「剃头匠」ですが、剃头刮脸といえば、昔ながらの理髪と顔そりをセットで行う、今の日本の理容店でおこなう施術を指すようです。現代中国では「理发(理髪)」ばかりを目にします。中国語の理には「いじる、かまう」の意味があるので、ヘアセットとかパーマとか、オプション的なことを元々指したのかもしれません(あくまで個人の印象で、未検証です)。

中国語のセリフについての解説等はこちらのサイトに面白いものがあります(ネタバレもあります)。
胡同の理髪師(剃头匠)_人民中国
このサイトにもあるように、劇中で話される北京語は、「老北京(生粋の北京っ子)」特有の、語尾のr化、nとngの顕著な区別などがたくさん味わえます。私は上海よりの地域に住んでいて、テレビもほとんど見なかったので、とても耳新しく、面白く聴きました。

この映画、DVDも出ているようですが、大きな声では言えませんがYouTubeで全編見れることを発見してしまいました。(ただし、英語と中文の字幕のみ)

The Old Barber 剃头匠 HD国语中字1280高清

これだけでも雰囲気は十分味わえるかと思います。
福岡市の総合図書館でも今月あと一度上映があるようなので、お住まいの方はぜひぜひ(料金は大人500円です)。

胡同の理髪師 [DVD]

胡同の理髪師 [DVD]

胡同物語(フートン) 消えゆく北京の街角

胡同物語(フートン) 消えゆく北京の街角